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高松高等裁判所 昭和24年(控)1272号 判決

被告人

高橋留吉

外一名

主文

原判決を破棄する。

被告人高橋留吉を懲役弐年及罰金千円に、被告人蓮岡弘次を懲役壱年六月に処する。

被告人高橋留吉に対し原審に於ける未決勾留日数中六十日を被告人蓮岡弘次に対し同五十日を夫々右各懲役刑に算入する。被告人高橋留吉が右罰金を完納することが出來ないときは、金百円を壱日の割合で換算した期間同被告人を労役場に留置する。

原審に於ける訴訟費用中弁護人佐々木龜三郞に支給した部分(金二千円)は被告人高橋留吉及原審相被告人小島一男の連帶負担とし当審の訴訟費用は全部被告人高橋留吉の負担とする。

理由

被告人高橋留吉弁護人市原庄八の控訴趣意の要旨は、原判決には証拠なくして被告人に有罪の判決を言渡し、又は証拠とすることの出來ないものを断罪の証拠とした違法がある。即ち原判決は証拠の標目に於て「第一、二共各被告人等の当公廷に於ける各関係部分に付判示同旨の供述及第一の(四)に付宮本貞夫作成の盜難申告書同(六)に付森傳吉及乾昭雄(乾昭夫の誤記と認む)作成の各同書同(七)に付佐々木將己作成の同書第二の(二)に付相被告人佐々木岩雄の当公廷に於ける判示運搬あつた旨の供述」とあつて、原判決が被告人高橋留吉の犯罪事実の証拠として掲げたものは、原審公判廷に於ける供述と被害者の盜難申告書のみである。而して盜難申告書は唯盜難に罹つたと云ふ事が記載してあるのみで、それに依つては何人が其の犯人であるが、即ち被告人高橋留吉が犯人であることは判らないのである。又各公判調書に依れば、第二回公判期日に於て檢察官が起訴状を朗読した後、裁判官が起訴状に対する冒頭陳述を求めたのに対し、被告人高橋は「小島と共謀したとの点を除きそれ以外は事実相違ありませんので別に陳述することはありません」と述べ次に「共謀したとの点が違ふと言つたが窃盜に行つた時被告人は現場へ行つたのか行かなかつたのか」との裁判官の問に対し、「現場へ行つた時には既に自轉車を盜んだ後であります」と供述して居るのみであつて、犯罪事実に対する供述は全記録を通じて爲されてゐないのである。然らば原判決が証拠に引用した公判廷に於ける被告人の判示と同旨の供述は檢察官の起訴状朗読に対する被告人の意見陳述以外には何もないことは記録上寔に明白であつて、斯る冒頭陳述のみを以て被告人の犯罪事実の自白であるとして証拠に採用することは刑事訴訟法上不法であるから、原判決は此の点に於て違法であり破棄すべきものであると謂ふのであつて、原審第二回公判調書に依れば被告人高橋留吉は所論の如く小島一男との共謀の点を否認して居るのに拘らず、原判決が之を判示同旨の供述として証拠に引用したのは、措辞稍簡に過ぎ聊か意を盡さざるの嫌があるが、公判廷に於て被告人が檢察官の朗読した起訴状の公訴事実を自認し事実は相違ないと陳述することは即ち公判廷に於ける自白に外ならず、之を証拠として他の証拠と相俟ち事実を認定することは毫も違法ではない。而して原判決は被告人の公判廷に於ける所論供述の外、相被告人小島一男の判示と同旨の供述及所論被害者の盜難申告書を補強証拠として窃盜の事実を認定したもので、之に依れば十分判示窃盜の事実を認定し得るから論旨は理由がない。

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